「神経芽細胞腫」聞き慣れない名前だと思います。少し短くして「神経芽腫」とも言います。実は2003年までは日本全国の乳児がいるおうちなら誰もが知っていた小児がんの名前でした。なぜ知名度が落ちたかというと、それまで6ヶ月健診時に行われていた尿検査の「マススクリーニング」が中止になったからなのです。マススクリーニングって何かというと、有名なのは生まれてすぐに受けるガスリー検査で、発病する前に大丈夫か全員に検査を行って確認して間に合ううちに治療を開始する方法のことです。「神経芽腫」のマススクリーニングは、現在なお北海道や東北、九州では行われています。
なぜマススクリーニングが行われたのでしょう。
小児がんで一番多いのは皆様ご存知の「白血病」ですが、「神経芽腫」は塊を作る小児がんでは一番多い病気で、尿に含まれるVMAという物質を測定すると発見できます。さらに、この腫瘍は1歳前に発見すると90%以上が助かるのに、2歳を過ぎて発見されると今でも治療が大変難しく助からないことも覚悟しなければならないので、何とか1歳前に発見してしまおうということで開始されたのです。実際、マススクリーニングで発見された「神経芽腫」のお子様の98%が完治しました。
そんなに良いことなら、なぜ中止されたのでしょう。
ところが、始めてみると幾つかの問題が出てきました。
①尿にVMAを出さない性質の神経芽腫や、6ヶ月の時点では腫瘍が小さくVMAが少なすぎて正常と考えられたお子様などで発見が遅れる傾向が出てきた。
②A発見されたお子様の半数近くが自然に治ることが分かった。もし自分のお子様が自然に消えると分かっているのなら、知らない方がよかったとは思いませんか? 消えたことが確認できるまでは何度も検査が必要だし、沢山沢山心配もするのですから。
③B統計をとってみると腫瘍が進行していて(いわゆる手遅れ状態で)治療が困難なお子様が、期待されたほどには減少しなかった。
そんな訳で「コストパフォーマンスが悪い」ということで中止になったのです。
国が中止してもやめない地域があるのはなぜなのでしょう。
私は八王子周辺の「神経芽腫」のお子様のほとんど全部を診療してきたのですが、マススクリーニングが中止されて2年が経過する頃から、かなり進行してしまってVMAの値も信じられないほど高い2歳過ぎの患者さんがまたお出でになるようになりました。前に述べた�Bが真実なら、マススクリーニング中に2歳以上の患者さんが殆どおられなかったのはなぜだったのでしょう。そんな印象を持っている医者は私だけではありません。だから、いきなり中止はせずにマススクリーニングの時期を遅らせたり、2回行ったりと、前に書いた問題を解決すべく努力をしながら続けている地域がまだかなりあるのです。
検査のご希望があれば、当クリニックでもVMA検査は行えます。
自治体がマススクリーニングをやめても、VMAの検査を禁止している訳ではありません。病気ではないので健康保険はききませんから自費で行うしかないのですが(1500円くらいかかってしまいます)、間に合う時期に尿のVMAを測定することはできます。オムツの中に脱脂綿を入れておき、朝起きた時に濡れた脱脂綿を試験管やビンにしぼってアルミホイルで遮光してお持ちいただければ、測定することができます。時期は1歳近くが良さそう、夏は雑菌が増えるために異常値が出やすいので避けた方が良さそう、などのお勧めはありますが、いつでも測定は可能です。マススクリーニングが中止になった理由(検査のデメリット)もよくお考えの上、ご希望があればおっしゃっていただければと思います。”